ESG公示義務を2026年に延期

 金融委員会は10月16日、「ESG金融推進団第3回会議」を開催し、ESG公示日程を2026年以降に延期すると発表した。 当初の政府の計画は2025年から資産が2兆ウォン(約2,310億円)を超えるKOSPI上場企業は環境にやさしい、社会的活動を盛り込んだ「持続可能経営報告書」を公示するようにし、今後その範囲を拡大することだった。 しかし、この日の政府発表を見れば、ESG公示義務が2026年以降に少なくとも1年延期され、また具体的な導入時期は関係省庁と協議して決めるとして、実際の導入はさらに遅れる可能性もあるものと見られる。 このように公示義務を延期したのは、米国など主要国のESG公示義務化が遅れており、国内ESG公示の主要な参考基準であるIFRS-ISSB基準が最近(「2023年6月」)になって確定し、各企業で導入するためには準備時間が必要だと延期要請などをしたことを勘案したものだ。

 伝統的に企業の業績は財務実績を定量的に表示する財務諸表によって評価されてきた。 しかし、炭素排出とそれに伴う気候環境の変化からも分かるように、企業の活動が環境と社会に互いに影響を与え合い、中長期的な生存可能性まで影響を及ぼすという事実は、企業活動中の非財務的価値の重要性を改めて認識させ、その代表的なものが今日のESG(Environmental・Social・Governance)である。

 政府発表によると、ESG規制強化は韓国だけでなく全世界的な傾向でグローバルバリューチェーンに編入され、直·間接的な影響を受ける韓国企業がEU、米国など海外主要国のESG規制強化の動きに漸進的に適応し、グローバル競争力を備えることができるようにする国内企業の適応力向上対策といえる。 また、ESG公示制度が韓国経済と産業の持続可能な成長に寄与できると言える。 すなわち、ESG公示制度導入は持続可能な成長に寄与する企業により円滑な資金供給を可能にし、韓国「経済」が量的成長中心から「質的成長」に進化するのに役立つと期待することもできるだろう。

 一方、ESG公示制度が導入され定着するまでは解決しなければならないイシューがまだ残っていると言える。 これまで企業が自律的に公示してきたESG情報公開は、持続可能な経営報告書の形で資本市場に公示されてきたが、作成基準は全世界的に統一されてはいない。 持続可能経営報告書の作成のために企業が主に参考にするグローバルガイドラインとしては、GRI Standards、SASB Standards、TCFD勧告案、IR Framework、WEFの「利害関係者資本主義共通指標」などが挙げられる。 韓国取引所が2021年に発表した「ESG情報公開ガイダンス」でも一般的に広く使われるグローバル標準/イニシアチブの指標を使用することが望ましいと勧告している程度だ。

 国際持続可能性基準委員会(ISSB)が最近(2023年6月)確定した持続可能性公示基準(IFRS1、S2)がグローバルESG公示基準になるものと予想されているが、これは既存の自律公示ではなく法定公示基準で法的な公示義務を付与するには時間がかかるものと予想される。 また、従来の公示基準との調和も解決すべき課題である。 現実的には自律公示拡大、これに対する支援、法定公示基準確定、法定公示実施、範囲拡大などの定着のための臨時手続きを経るものと予想される。 どんな基準でいつ実施されても、企業にとっては中長期的な生存の問題がかかった重要なイシューだと言える。 あらかじめ準備をしなければならないだろう。


<筆者紹介>
信和会計法人は、2003年設立され、韓国進出を目指している企業、または進出済みの日本企業向けに、法人の設立に関するご相談及び設立代行、会計、税務、給与サービス、支給代行サービス、会計監査、デューデリジェンス(Due Diligence)サービス等を提供しております。大手会計法人の日本事業部出身のベテラン会計士を中心に設立され、豊富な経験とノウハウを活かし日系企業のクライアント様に最善のサービスを提供しております。
今回の担当：張太日(チャン・テイル)公認会計士(韓国)。英和会計法人(現在、Ernst&Young韓英会計法人）にて勤務。日本太田昭和監査法人(現在、新日本有限責任監査法人)にて派遣勤務。現在は信和会計法人の国際部代表。(TEL: 02-555-9211/E-mail: tichang@swacc.com)


<出典：NNA ASIA アジア経済ニュース、2023.11.9 https://www.nna.jp/>