非財務情報（ESG）の開示義務化

　最近になって、企業の持続可能な経営水準を考慮した投資、すなわち社会責任投資に対する関心が高まっている。このため、ＥＳＧに対する情報公開の必要性も高まっている。

　ＥＳＧは、環境（Environment）、社会（Social）、企業統治（Governance）の頭文字を取ったもので国際連合が2006 年に発表した責任投資原則（PRI,Principles for Responsible Investment）に基づいている。社会責任投資には、定量的な財務的情報だけでは把握できない非財務的情報であるＥＳＧ要素についての情報も適切に開示されてこそ可能であろう。

　現在の開示基準によると、資産総額２兆ウォン（約1,960 億円）以上の有価証券市場（ＫＯＳＰＩ市場）に上場している法人に対しては、コーポレートガバナンス報告書の開示が義務付けられているが、26 年から全ＫＯＳＰＩ上場会社に対してコーポレートガバナンス報告書の開示が義務付けられる。

　また、金融委員会が１月に発表した「企業開示制度総合改善策」によると、「企業支配構造報告書」に加えてＥＳＧと関連した持続経営可能報告書の開示が段階的に強化される。

　まず取引所は「ＥＳＧ情報公開ガイダンス」を提示し、25 年までに「継続可能経営報告書」の自主開示を誘導し、25 年から30 年までは一定規模（資産２兆ウォン、見込）以上のＫＯＳＰＩ上場企業に対して「継続可能経営報告書」の開示を義務付け、30 年以降は全体のＫＯＳＰＩ上場企業に対して「継続可能経営報告書」の開示を義務付ける。　

　国連責任投資原則（ＵＮＰＲＩ）は、世界の機関投資家らの責任投資ネットワークで、現在、署名機関だけでも3,000 カ所に上り、これらの資産を合計すれば100 兆米ドル（約１京1,000 兆円）を超える。国民年金を含めた世界規模の年金機関や投資銀行が国連責任投資原則に加入している。

　国連の責任投資原則では、機関投資家に投資分析と意思決定過程にＥＳＧ課題を含めることと、投資対象企業にＥＳＧ課題に対する適切な開示を要求している。

　欧州連合（ＥＵ）は、14 年に既に労働者平均500 人以上、資産総額が2,000 万ユーロ（約26 億円）または純売上高が4,000 万ユーロ以上の企業に対して非財務情報（ＥＳＧ）の開示を義務付ける制度を導入し、18年から公開するようにした。

　英国は00 年にＥＳＧ評価情報を導入しており、オーストラリアとニュージーランドも企業のＥＳＧリスクの存在と管理内容を証券取引所に開示するようにしている。

　ＥＳＧ開示に対する世界市場の流れを見ると、韓国企業のＥＳＧ対応は取引所が発表した「ＥＳＧ情報公開ガイダンス」に基づいて準備を行うなど、始まったばかりである。グローバル市場で競争している企業各社は近いうちに、新市場開拓や売上拡大、資金調達など、ほぼ全ての方面でＥＳＧの影響力を体感するものと見られる。

　ＥＳＧ評価要素は実に多様であるといえるが、取引所が発表した「ＥＳＧ情報公開ガイダンス」は、環境指標として温室効果ガス排出、エネルギー使用、水使用、廃棄物排出などを、社会指標として安全・保健、公正競争などを勧告公開指標として指定するなど、評価要素を標準化したことに意義があるといえる。一部の企業にとってはＥＳＧ開示が負担になるかもしれないが、持続可能な成長のためにはＥＳＧ情報公開義務への対応をより積極的にする必要があるといえる。

<筆者紹介>

信和会計法人は、2003年設立され、韓国進出を目指している企業、または進出済みの日本企業向けに、法人の設立に関するご相談及び設立代行、会計、税務、給与サービス、支給代行サービス、会計監査、デューデリジェンス(Due Diligence)サービス等を提供しております。大手会計法人の日本事業部出身のベテラン会計士を中心に設立され、豊富な経験とノウハウを活かし日系企業のクライアント様に最善のサービスを提供しております。

今回の担当：張太日(チャン・テイル)公認会計士(韓国)。サンダーバード(Thunderbird)経営大学院でMBA。英和会計法人(現在、Ernst&Young韓英会計法人）にて勤務。日本太田昭和監査法人(現在、新日本有限責任監査法人)にて派遣勤務。現在は信和会計法人の国際部代表。(TEL: 02-555-9211/E-mail: tichang@swacc.com)

<出典：NNA ASIA アジア経済ニュース、2021.4.8 https://www.nna.jp/>